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彼のやり方は、私がそれまで経験してきた食事のありつき方とは、まったく違っていた。 学生や就職して間もない若人は、通常、ビンボーだから、入る店にまず、とことん迷う。

料金とサイフとの折り合いが大問題だからだ。 やっとこさ入店しても、注文するのに、またまた時間がかかる。
ああでもない、こうでもないと話し合ったあげく、結局、第一希望とはかけ離れた地点に落ち着くのが常なのだ。 そして、お勘定を払う時点でも、どちらがどれだけ払うのかで、さらなる話し合いを持たなければならない。
食事をするだけで、けつこうな時間とエネルギーがかかるのだ。 Hさんは、そんなやりとりとは無縁らしい。
即決即断。 すべてが、素早い。
私はこの(私にとって)新手の手法が、とてもラクだと感じ、すっかりゴキゲンになってしまった。 新手といえば、食事中、私の男性関係にまったく話が及ばないのも新鮮だった。
たいてい、どう考えても恋愛関係には及ばないと思われる男性でも、一緒に食事をすると、そのテの追及には余念がないものなのに。 私とHさんは、ただ当たり障りのない会話に終始し、しかしそれでもじゅうぶん楽しんで、穏やかな気持ちで別れたのだった。
私は帰るみちみち、この会合をどう受け止めればいいか、と考えずにおれなくなった。 彼の目的はなんだったのだろうか。
私という人間を、彼の作品の参考にしたかったのだろうか。 いや、このシチュエーションからすると、彼は私を、女性として誘ったんじゃないのI?私の心に、大胆な発想が浮かんだ。
だとしたら、これってイケナイこと……帰路の2時間半をかけてえんえん考えた末、彼には食事を誘う女性はたくさんいるんだろう、深く考えることはないと、納得することにした。 食事の時、それまで、私が電話番号を聞かれる時というのは、仕事上の必要があって、という場合が圧倒的に多かった。

よって、名刺を差し出す。 仕事で名刺を渡すのは、なにも、「寂しい時には、電話をしてネ」という意味ではない。
仕事上、必要とも思えない相手に連絡先を聞かれ、胸ときめかせた経験もなくはない。 SF作家のHさんに食事に誘われた時、私は会社をやめる直前だった。
じゃ、連絡先を教えてください」こういう会話を交わし、人妻の自覚が欠けている私は、自宅の電話番号をアッサリ教えること、私が電話に出ると、「Nさんですか」「はい」しかし、その数少ない経験を振り返ると、私の場合、結局、なにかに発展したためしはなかった。

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